「渇いた犬」 | |
はじめてのカンジを忘れちゃったよ 少しだけ古いカンジは恥ずかしいものだよ 棚の中からはじめてのカンジを探して それは飽くまで カンジであって はじめてであってはいけないんだ イタズラを隠すやり方で 恥ずかしさは見えない所においておくカンジがいい 「キミは、どれだけの世界を歩いてきたのだね」 「はい。私はただひとつの大陸を渡っただけです。 旅行者としてではなく、就業する為だけのことでした」 「何かを得たかね」 「はい、いいえ・・・分からないのです。 ひたすら寒かったことは憶えています」 「旅の記憶を共有する誰かはいるかね」 「いいえ、私はいつも独りでした」 「キミは、この世界にアリバイが欲しいのかね」 「確かにそんな時代もありました。 でも今は、どうでもいいことです」 「そうか。ではキミの旅の記憶を消してあげよう。 これでもう、あの悪夢に悩むこともないだろう」 「ありがとうございます。 教えてください。私にまだ時間はありますか」 「時間などいくらでもある。ゼンマイを巻けばよい」 「教えてください。私にまだ足はありますか」 「さあ、そこだよキミ、問題は」 |